「旅」がコンセプトで、ワインペアリング付ミールキットの「table trip」。
2021年のテスト販売を経て、2022年から本格的にサービスを開始しています。
「時短」を追求するミールキットが多い中、table tripは「非日常の体験」が得られるのを特徴に着実にファンを増やしています。
今回、筆者はtable tripを企画するサントリーの根本さん、田口さんにお話を伺いました。
table trip設立の想いや魅力を語っていただいたので、ぜひチェックしてみてくださいね。
タップできる目次
table tripの概要
-最初に、簡単にtable tripについて教えていただけますか?
(根本さん)table tripはサントリー ホールディングス(株)が開始した「旅」をコンセプトにしたミールキット宅配サービスです。
毎回、テーマとなる国、地域を決めて、その地域に特有のメニューのミールキットと料理に合うお酒をセットで提供しています。現状、お酒はワインが中心ですね。
これまでにポルトガル、スペイン、フランスをテーマにした商品を作っています。
さらに、ミールキットとお酒の他に、その国の食文化を取材したリーフレット「トリップブック」をお届けしています。
-トリップブックについて、もう少し詳しく教えていただけますか?
料理を作ったり食べたりしながら、旅に出た気分を味わっていただくために、その国ならではの文化やちょっとした豆知識をリーフレットにまとめています。
料理に込められた、その土地の人々の暮らしに想いを馳せ、少しでも旅に出た気分を味わってほしいという想いでトリップブックを作っています。
- 荷物が届いて箱を開けるときのワクワク感
- トリップブックを見て異国の文化に触れる非日常感
-
現地の調理法で家族や友人と一緒に料理する楽しさ
-
サントリーのソムリエが提供する最高のペアリングで料理とお酒と会話を楽しんでもらうリラックスした時間
table tripでは、これら全てを通じて非日常感を味わってほしいと思っています。
table tripサービス作りの想い
-ありがとうございます。今回、どのような想いでtable tripのサービスを作られたか教えていただけますか?
お客様のマンネリを解消したい
(田口さん)そうですね......。一言で言うと「お客様の食卓のマンネリを解消したい」というのが狙いです。
-「マンネリ感」ですか。どういうことか詳しく教えていただけますか?
コロナ禍で外食しづらくなった
サントリーは飲食店様にも商品を提供しているのですが、2020年からコロナ禍となり、お客様の外食の機会が激減している様子を肌で感じていました。
そのコロナ禍において、お客様が自宅で食事やお酒を楽しむ機会が増加する中、「おうち時間を充実させたい」「マンネリな食卓をなんとかしたい」といったお客様のニーズが高まっていました。
それに、旅行にも行きづらくなっていますよね。海外旅行は特に。
そのような方々に対して、
- おうちでワクワクした瞬間を作ってほしい
- 海外に旅をしている非日常の雰囲気を味わってもらいたい
こんな想いでtable tripのサービスを考えました。
サントリーだからこそ始められたサービス
-なるほど。コロナ禍で家にこもる人が抱えているマンネリ感を解消するためにtable tripを作られたのですね。サントリーは飲料メーカーという印象が強いのですが、なぜミールキットを作ることにしたのでしょうか?
外食事業を営んでいる
(根本さん)たしかにサントリーは飲料を販売しています。
しかし、それだけではなくサントリーは「(株)ダイナック」や「(株)プロントコーポレーション」といったグループ会社が、外食事業も営んでいます。
その社内の知見を活かし、table tripのレシピについては、ダイナックのシェフに考案してもらっています。
-なるほど。サントリーの社内にプロのシェフが大勢いるのですね。
もちろん、サントリーはビールやワインなどさまざまなカテゴリのお酒を製造・販売していて、幅広い商品の取り扱いがあります。だからこそ、「ミールキット+お酒」のセットという提案ができるわけです。
「やってみなはれ」の文化
それに加えて、サントリーは新規事業や新規サービスの開発にも積極的です。
例えば最近でいうと、キッチンカーでドリップコーヒーや豆を販売する「RR COFFE」というサービスを始めたりしています。
table tripも社内から起きた新規サービス提案の一つとして始めています。
-サントリーには「やってみなはれ」の文化が根付いているのですね。
table tripメニューの制作秘話
-サントリーがtable tripを始めた理由が、よく分かりました。次に、実際にtable tripのメニューを作るプロセスを教えていただけますか?
ワクワクするメニューテーマを選ぶ
(田口さん)商品のメニューテーマを作るまでに、色々な関係者とディスカッションをしています。
table tripの企画メンバー、ダイナックのシェフ、ワインソムリエなどの意見を聞きながら、アイデア を練っていきます。
また、お客様のアンケートも参考にしています。アンケートを見るとフランスやイタリアなど定番で「これは絶対美味しいでしょ!」という地域だけでなく、トルコなど普段の食卓には上がらない、食べたことのない国も人気です。
最終的には「私たちがワクワクするか?」でメニューテーマを決めています。
企画から完成まで4ヶ月かかる
-なるほど。メニューテーマを作ったあとは、何をするのでしょうか?
(田口さん)実際のメニューの作りこみに入ります。
まず、ダイナックのシェフがメニュー案を考えてくれます。大体1ヶ月程度かかりますね。
その後、table tripの企画メンバーが実際にレシピに従ってメニューを試作します。
- 作る工程で、やりづらいところはないか?
- 味付けは、日本人に馴染みやすいか?
などの観点で、最低2回は試作をしていますね。
試作から最終確定までには半月〜1ヶ月くらいかかっています。
全て合わせると、企画から商品の完成までおよそ4ヶ月かかっています。
-4ヶ月もかかっているのですね!
現地の料理を日本で手に入る食材で再現
-世界の料理を日本の食材で再現するのに苦労することはありませんか?
(根本さん)そうですね、
メニューを選定する際に、
たとえばフランスのリヨンがテーマの時に、クネル(*)という料理がありました。
(*)リヨン名物の料理。すりつぶした魚にソースをかけてオーブンで焼いたグラタン料理。
本来は「ザリガニソース」を使うのですが、さすがに日本で食材が手に入りません。なので、シェフがアレンジをしてアメリケーヌソース(エビの殻で作るソース)に変更しています。
お客様の声を聞くと、ミールキットを作った後に、自分で材料を調達して再現している人が多いことに気づきました。そのような方のためにも、日本で手に入る食材でメニューを作っていきたいですね。
現地の調理法を取り入れる
-たしかに、日本で手に入る食材で現地のメニューを再現してもらえるのはありがたいですね。
(田口さん)一方で、現地の調理法で独特のものがあれば取り入れるようにしています。料理を作るプロセスにも、非日常感を味わってもらうためです。
たとえば、ポルトガル料理でパプリカをすりおろしてお肉を漬け込む工程があります。「パプリカをすりおろす」というのは多くの日本人にとって初めての作業のはず。
こういった、独特の調理法がある場合は、シェフが工夫してレシピに取り入れています。
table tripのお酒のセレクト
-ありがとうございます。料理のメニューが、どのように決まっているのかイメージが湧きました。table tripはミールキットとお酒がセットになっていますよね。お酒は、どのように選んでいるのでしょうか?
最初はジンで企画していた
(根本さん)実は、6月に販売した「スペイン バスク地方」のメニューを企画していたとき、最初はお酒として「ジン」をペアリングしようとしていたんです。
社内でヒヤリングしている中、最近スペインで、特に若者の間で、バルーングラスという大きめのグラスにジンやフレーバーを入れて飲むのが流行っているということを知りました。
このスペインの酒場の雰囲気を味わってもらいたくて、ジンをセットにしようと思ったんです。
ただ、企画メンバーで議論する中で、大抵のご家庭では1回では飲み切れず余ってしまいそうだよね、バルーングラスって家にないよねなど、色々と意見も出まして、最終的にはペアリングの相性を考えて赤ワインが選ばれました。
サントリーのスーパーソムリエがワインをセレクト
-そのような経緯があったのですね。毎回セレクトされるワインは、ミールキットの料理にとてもよく合っていると感じています。どなたがワインを選ばれているのでしょうか?
(根本さん)サントリーには、ソムリエ資格を持っている人が大勢います。周りを見渡しても本当に多いですね。
その中でも、柳原は、社内外へワインの啓蒙活動も行うワインのスペシャリストです。
※柳原さんのYouTube動画
柳原に「今回はスペインがテーマで、こういったメニューにする予定です」と伝えると、「スペインでこのレシピだと、このワインか、あのワインがオススメですね」という感じでチョイスしてくれます。
単に味を合わせるだけでなく、地域の特色や歴史まで踏まえて選んでくれるのです。
しかも、
- なぜ、このワインがおすすめなのか?
- ワインのどのような風味が、料理のどの味の要素に合うのか?
など、詳細なコメントをつけてくれます。
柳原のワインテイスティングのコメントをトリップブックに掲載しています。
ぜひ、コメントを読みながら料理とワインを味わっていただきたいですね。
また、社内には柳原の他にもワインのスペシャリストやウイスキーのスペシャリストもいますので、今後のペアリングをぜひ楽しみにしていただきたいです。
table tripの特徴と差別化戦略
-ありがとうございます。ここまでtable tripについて、色々お話を伺いました。改めてtable tripならではの特徴について教えていただけますか?
お酒とミールキットのペアリングを提案
(田口さん)大きく2つの特徴があります。
1つ目は、ミールキットとお酒のペアリングを提案していることです。
「ミールキットだけ」、「お酒だけ」という商品は数多くありますが、ミールキットとお酒のペアリングを提案しているサービスはありません。
-たしかにそうですね。料理に合わせたワインを選ぶのに苦労しているので、セットで提案してもらえるのは助かります。
食事を通じて「非日常」を演出
2つ目は「非日常」を演出していることです。
ミールキットというと、買い物や調理の手間を省き「時短」を目指すものが多いですよね。ですが、table tripは時短を目指さず、家族や友人と非日常の時間を味わっていただくことを目指しています。
-非日常とは、具体的にどんなイメージなのでしょうか?
そうですね。
実際にお客様の声を聞くと、さまざまな楽しみ方があるようです。
- 夫婦で一緒に料理を作り、普段より会話が増えた
- 普段は食事中にTVを見ているけど、トリップブックの内容や料理に関する会話で盛り上がりTVをつけずに料理を楽しめた
- 友達を誘ってtable tripを一緒に作った
このように、table tripを通じて普段の食事とは一味違う体験をしてもらっている感じです。
企画をするときには、
と考えています。
メニューの先に「人」を感じてほしい
-たしかにtable tripには、他のミールキットにはない「楽しさ」を感じることが多いですね。
(根本さん)私たちは、お客様にtable tripの後ろにいる「人」との繋がりを感じてほしいと思っています。
具体的には、
-
table tripの企画メンバー
-
レシピ開発をしているダイナックのシェフ
-
ワインを選ぶソムリエ
-
現地を取材しているメンバー
などです。
届くのはミールキットとワインですが、その奥にはさまざまな人がいるのを感じて欲しい。
そのために、パッケージやトリップブックの素材感やデザインにこだわっており、手作り感を出しています。
洋酒文化を作ったトリスバーを研究
-パッケージやトリップブックから親しみやすさを感じますね。table tripのサービスを考える上で、何か参考にしたものはありますか?
(根本さん)他社のミールキットサービスは、あまり参考にしませんでした。なぜなら、table tripは「おうちでワインと料理のマリアージュ」や「非日常」といった、従来のミールキットにはない価値創造を目指しているからです。
「価値創造」という観点で参考にしたのはサントリーが過去にサントリーが作った「トリスバー」です。トリスバーとは、1950年代に広まったウィスキーが飲めるバーです。
⇨ご参考:トリスバー
「美味しいお酒が飲める場所」として一世を風靡しました。トリスバーには『洋酒天国』という雑誌が置いてあり、お酒の楽しみ方に関する情報が手に入ります。
それだけではなく、バーに来る人はお酒だけでなく、バーの空間やコミュニケーションを楽しんでいました。
つまり、トリスバーは「洋酒を楽しむ」という文化を作ったのです。この精神はサントリーのDNAに刻まれています。
私たちは、今の時代に求められる潜在的なニーズに応える文化を作りたい。そう思ってtable tripのサービスを立ち上げました。
table tripの今後の展開
-table tripの今後の展開について教えていただけますか?
(田口さん)ありがたいことに、少しずつtable tripを利用していてくださるお客様が増えています。これからも皆さんに満足していただけるような新商品を作っていきたいです。
-table tripを利用されているお客様は、どのような方が多いのでしょうか?
想定よりも多様なお客様
(田口さん)もともとは、40代以上のご夫婦を想定していましたが、実際には思っていた以上に様々なお客様がtable tripを利用してくださっています。
- 小さなお子様がいらっしゃるご家庭で「子供の分も含めて3人分購入したい」との声
- 単身赴任の方が、「料理を作って2回に分けて食べる」というケース
- 「両親や兄妹にプレゼントとして送った」という方
色々な形がありますが、table tripを購入されるお客様は「非日常を求めている」点は共通していると感じています。
多くの人にtable tripを知ってもらいたい
(田口さん)今後は、より多くの方にtable tripを知っていただきたいですね。
今はSNSの口コミなどでジワジワ広がっています。
さらに多くの方に非日常を味わっていただけるよう、工夫していきたいと思います。
時代に合わせた価値を提供し続ける
(根本さん)私たちはコロナ禍のお客様の生活の変化から、非日常の象徴である「旅」をコンセプトとして、table tripのサービスをスタートしました。
ただ、お客様の状況が変化すれは、「非日常」に求められるアプローチが変わるかもしれません。
table tripの価値は「非日常」×「お酒」×「食事」ですので、世の中の変化を見ながら、時代に求められる価値を提供していきたいです。